あの日の桜

「桜を撮りに行くけど、一緒に行く?」

「おう、でも最近速く歩けなくてな」

そう言う父を連れ出し、野川の川辺を歩いた。

父の歩調に合わせて、ゆっくりとゆっくりと歩いた。

それから程なくして、父は歩けなくなった。

***

2年が過ぎた。

父を見送った翌日、野川へ行った。

早咲きの桜がただ一本だけ、花を咲かせていた。

思えばあの日が父とふたりで歩いた最後の日だった。

僕はゆっくりとゆっくりと歩いた。

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