ひーじゃーの島

波照間はヤギの島である。飼いヤギと野良ヤギを合わせると、人の数より多いと言われている。

沖縄ではヤギをヒージャーと呼ぶ。島のいたるところにヒージャーがいて、人々と伴に暮らしている。

ヒージャーは雑草で育つ。乳や肉は栄養価が高い。安価で安定した食料源としてのヒージャーは、沖縄の過酷な歴史の中で、人々の命を支える礎となっていた。

沖縄各地では仏教とも神道とも異なる、御嶽(「ウタキ」「オン」)を中心とした神々への信仰が今なお息づいている。

波照間島では、特にその信仰は深い。

御獄は神聖な場所であり、撮影も憚られる。しかし、聖地のみならず、静かで濃厚な空気に満ちた森や、夜の風景をほのかに浮かび上がらせる月の光、潮の満ち引きや陽の光で絶えず姿を変える海の色に、今なお神々の存在を感じるであろう。

俗化されていない島の風景に、春の陽射しを浴びて穏やかに草を食むひーじゃーの姿が溶け込んでいた。

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